運転手葛城の回想録~第三話~

※今回はお題に沿ってかいています


   お題元 『DoLCe』様




「この先の●●まで」

あの紳士は、そう言って乗り込んできた。

歩いて行ける距離なのに、なぜタクシーを使うのだろう……?

「あ、お金はサキニワタシテオコウ」

聞き違いかもしれないが、「先にわたしておこう」の発音がおかしかった。

純日本人のような顔をしているが、ハーフだったりするのかもしれない。

または違う地方からきたのか?

「途中で帰るようなことになると困るのでね」

紳士はそういって屈託のない笑顔をうかべた。

帰る?途中で降りるという意味だろうか?

まあ、どっちにしろ

「あの…距離によってお金が変わるので後でにしていただけますか?」

「えっ……あぁ、すまない。フダンはタクシーを使わないもので」

またも普段の発音がおかしい。肌の色から中国あたりかな……。

その時ぼそっと聞こえてきた。

「調査不足だ……」

調査?いや、きっと今のはため息だろう。

たんなるため息が言葉に聞こえたにすぎない。

「いきなりなのだが……クルマというのはドウヤッテ運転するのだね?」

お金持ちのようだし、誰かに運転させているのだろうか。

「説明しにくいですが……」

アクセルやブレーキなど、知っておけば運転できる程度のことを詳しく話した。

ほかに話題などがなさそうだったからだ。

「ふむ……オモシロイ」

外国に関わりがあるらしい紳士の目が光る。

「やらしてモラエナイかね?」

「あ、いや仕事ですので……」

しかし客の要望だ。

こんな要望は初めてだ!

どう答えたものか……と、頭を悩ませていると、目的地についた。

「着きましたよ。」

そこは荒れ地。

見渡す限り何もない。

「アリガトウ。何円カネ?」

「かね?」と聞いているようにも、「金」といっているようにも聞こえる。

まったく、おかしな発音だ。

「●●円です。」

紳士は札束を出していった。

「それはコレダケデ足りるカネ?」

「とんでもない!おつりがいりますね、ちょっと待ってください。」

そういっておつりを出そうとすると、紳士は困った顔をした。

「オツリ?コマッタ、足りないのカネ」

それこそとんでもない!

この10分の1程度でいいのに!

「充分ですよ。」

そう言ってお札を一枚もらい、たくさんのおつりを出した。

「ドウモアリガトウ。マタ来るかもシレナイ。」

私はぺこりと頭を下げて、こう返した。

「その時、また会えるといいですね。」

「ココヘキタラ必ずアウ。必ず。」

「必ず」だけは綺麗な発音で、繰り返した。

「ありがとうございました。」

そういって深く頭を下げた。

「マタアオウ」

頭をあげると、紳士は……

 

   いつの間にか消えていた。

 

 

-END-

 

 

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