※今回はお題に沿ってかいています
お題元 『DoLCe』様
「この先の●●まで」
あの紳士は、そう言って乗り込んできた。
歩いて行ける距離なのに、なぜタクシーを使うのだろう……?
「あ、お金はサキニワタシテオコウ」
聞き違いかもしれないが、「先にわたしておこう」の発音がおかしかった。
純日本人のような顔をしているが、ハーフだったりするのかもしれない。
または違う地方からきたのか?
「途中で帰るようなことになると困るのでね」
紳士はそういって屈託のない笑顔をうかべた。
帰る?途中で降りるという意味だろうか?
まあ、どっちにしろ
「あの…距離によってお金が変わるので後でにしていただけますか?」
「えっ……あぁ、すまない。フダンはタクシーを使わないもので」
またも普段の発音がおかしい。肌の色から中国あたりかな……。
その時ぼそっと聞こえてきた。
「調査不足だ……」
調査?いや、きっと今のはため息だろう。
たんなるため息が言葉に聞こえたにすぎない。
「いきなりなのだが……クルマというのはドウヤッテ運転するのだね?」
お金持ちのようだし、誰かに運転させているのだろうか。
「説明しにくいですが……」
アクセルやブレーキなど、知っておけば運転できる程度のことを詳しく話した。
ほかに話題などがなさそうだったからだ。
「ふむ……オモシロイ」
外国に関わりがあるらしい紳士の目が光る。
「やらしてモラエナイかね?」
「あ、いや仕事ですので……」
しかし客の要望だ。
こんな要望は初めてだ!
どう答えたものか……と、頭を悩ませていると、目的地についた。
「着きましたよ。」
そこは荒れ地。
見渡す限り何もない。
「アリガトウ。何円カネ?」
「かね?」と聞いているようにも、「金」といっているようにも聞こえる。
まったく、おかしな発音だ。
「●●円です。」
紳士は札束を出していった。
「それはコレダケデ足りるカネ?」
「とんでもない!おつりがいりますね、ちょっと待ってください。」
そういっておつりを出そうとすると、紳士は困った顔をした。
「オツリ?コマッタ、足りないのカネ」
それこそとんでもない!
この10分の1程度でいいのに!
「充分ですよ。」
そう言ってお札を一枚もらい、たくさんのおつりを出した。
「ドウモアリガトウ。マタ来るかもシレナイ。」
私はぺこりと頭を下げて、こう返した。
「その時、また会えるといいですね。」
「ココヘキタラ必ずアウ。必ず。」
「必ず」だけは綺麗な発音で、繰り返した。
「ありがとうございました。」
そういって深く頭を下げた。
「マタアオウ」
頭をあげると、紳士は……
いつの間にか消えていた。
-END-