「今日は七夕ですね」
そう声をかけてくれたのは、客のきれいな女性だった。
「そうですね」
中途半端な答えを返す。
「織姫と彦星は、何を思うんでしょうね」
鈴がなるような声だったのを、覚えている。
「難しい質問ですね……。お客さんはどう思いますか?」
少し沈黙が続いた。
女性は、ゆっくりと話し出した。
「分かるんです、本当に。二人の気持ちが」
「と、いいますと?」
答えは、言いにくそうに返ってきた。
「あの…付き合っている彼氏が海外に住んでいるので…」
「そうなんですか!大変ですねぇ」
「一番つらいのは浮気してても分からないことですよー!」
女性はそう言って、軽く笑った。
「普段はやっぱりつらいですけど、会った時の嬉しさは並ではないですよ!
でも、やっぱりそばにいてほしいです……」
悲しそうな顔になる。
そばにいないだけで、こんな顔にさせてしまうんだな。
ふと、家にいる息子のことを思い出した。
「着きましたよ」
「ありがとうございます」
なにか青いものが落ちた。
「落ちましたよ」
拾うと、それは短冊だった。
“たかしと一緒に海にいけますように”
「あっすいません」
乗せた時間は数分だったけれども、あの人の声は今でも耳に残っている。
女性の背中が小さくなっていくのを、いつまでも見つめていた。
息子に何か買って帰ろうかな。
-END-