運転手葛城の回想録~第二話~

「今日は七夕ですね」

そう声をかけてくれたのは、客のきれいな女性だった。

「そうですね」

中途半端な答えを返す。

「織姫と彦星は、何を思うんでしょうね」

鈴がなるような声だったのを、覚えている。

「難しい質問ですね……。お客さんはどう思いますか?」

少し沈黙が続いた。

女性は、ゆっくりと話し出した。

「分かるんです、本当に。二人の気持ちが」

「と、いいますと?」

答えは、言いにくそうに返ってきた。

「あの…付き合っている彼氏が海外に住んでいるので…」

「そうなんですか!大変ですねぇ」

「一番つらいのは浮気してても分からないことですよー!」

女性はそう言って、軽く笑った。

「普段はやっぱりつらいですけど、会った時の嬉しさは並ではないですよ!

 でも、やっぱりそばにいてほしいです……」

悲しそうな顔になる。

そばにいないだけで、こんな顔にさせてしまうんだな。

ふと、家にいる息子のことを思い出した。

「着きましたよ」

「ありがとうございます」

なにか青いものが落ちた。

「落ちましたよ」

拾うと、それは短冊だった。

“たかしと一緒に海にいけますように”

「あっすいません」

乗せた時間は数分だったけれども、あの人の声は今でも耳に残っている。 

女性の背中が小さくなっていくのを、いつまでも見つめていた。

息子に何か買って帰ろうかな。

 

-END-

 

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